白河甚平と吠え壺の創作小説(ハレルヤ館)

YouTube用の朗読動画のための小説と挿絵のUP、ハレルヤ館(ココナラ)でご依頼いただいた作品をUPしております。

マチコアイシテル 2話

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店の中に入ると、

ワイシャツの上に、同系色の

白い V ネックのベストを着た中田先生と、

緑と黄色の太い横じまの T シャツに

半ズボンの良太君がカウンターにいた。

良太君はまた柴犬のような子犬を連れている。

「こんにちは」と私が二人に挨拶をすると、

先生は「ヨオッ!」と片手を挙げ、

良太君は恥ずかしそうにニッと笑う。

 

 

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「可愛い子犬だねえ、何て名前なの」と私。

「こいつ、ワンコって言うんだ」

良太君が人差し指で鼻の下を擦りながら

照れくさそうに答えた。

「犬だからワンコか・・・何だ、そのままじゃないか」

中田先生が突っ込みを入れる。

私が笑うと先生も良太君も笑い出す。

 

 


店の中が一気に明るくなったようだ。

しかし、何か足りない・・・

私はママがいない事に今頃気がついた。

「先生、ママは何処に行ったの?」と聞くと、

先生は首を傾げて

「さあ・・・私らが来た時から留守なんだよ。

 買い物にでも行ったんじゃないかな」と言う。

買い物・・・? それは変だ。

ママが一人で買い物になんて行く訳がない。

私が考え込んでいる間に、

中田先生と良太君の話がどんどん進んでいる。

 

 

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「ところで良太、ワンコとは何処で知り合った?」

中田先生がワンコを両手で持ち上げながら聞いた。

ワンコは嬉しいのか、

長い舌を出してハッハッと息をはずませている。

「それはおいらがこっちの世界に来て間もない頃の事だった」

良太君は、ちょっと偉そうな顔をして話し出す。

 

 

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「おいらは浜辺で目が覚めた」

浜辺?私とゴンの出会いも浜辺だった。

「誰かがおいらの顔をペロペロ舐めている。

 おいらがいくら払いのけても舐めまくって離れねえんだ。
 そこでおいらはヤメロ!って一喝してやった。

 それでそいつが犬だってわかったんだ。 

 それがワンコとの出会いだ」

「良太君もあそこでワンコに出会ったのか」

と私がビックリしたように言うと、

良太君は怪訝な顔をして

「兄ちゃんも誰かと浜辺で会ったの?」

と聞いてきた。

「ああ、私はあっちの世界で死に別れた猫と再会したんだ」

へえ、そうなんだ・・・と良太君も不思議そうな顔をしている。

中田先生が話しの中に入って来た。

「ひょっとしたら、海岸が

 あっちの世界とこっちの世界の境界線なのかも知れないな・・・

 ほら、彼岸って言うじゃないか」

彼岸・・・ああ、そう言えばそういう言葉を聞いた事がある。

「ひがん ? 何それ」と良太君が中田先生に聞く。

先生はテーブルの上で両肘をつき、

合わせた両手を鼻に当てて目をパチパチとさせている。

どう言おうかと考えているようだったが、

 やがて小首を傾げ、人差し指を一本立てて

ゆっくりと説明し始めた。

 

 

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「良太もワンコも、その猫もみんなもう死んでるんだけど、

 誰かに会いたいっていう気持ちがお互いを引き会わせたんだ。

 猫は君に可愛がられていたんだから、当然君の側に来る。

 良太の場合は・・・つまり、両方が寂しかったんだな。

 良太は生きている時、喘息持ちだったから

 犬など飼えなかったよな、

 だけどいつも心の中で

 犬を飼ってみたいと思っていたんじゃないか?」

中田先生に聞かれて良太君は頷く。

「な、そうだろう・・・・

 ワンコは多分飼い主だった人間を恋しがっていたんだろうよ。

 その二つの心が、お互いを引き会わせたって訳だ」

そうだったんだ・・・と私も良太君も納得した。

でも、その時私はアレッ?と思う。

その話は何処かで聞いた事がある。

思い出した・・・私は中田先生を軽く睨んだ。

「ちょっと、先生!

 そりゃママがこの前言ってた言葉じゃないさ」

ばれたか・・・と言って中田先生は笑い頭を掻いた。
あの時中田先生はママに、

会いたいと思えば必ず会えるものなのよと諭された。

そのお陰で良太君と再会出来たのだ。

 

 

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「なあんだ・・・あのおばさんから聞いたのか」

良太君が笑うと中田先生も笑い出した。

「まあ、つまり彼岸とは

 こっちの世界への入り口と考えればいいのさ」

と中田先生が言い終わると同時に、

カラ~ンコロンと軽やかな音をたててドアが開いた。

 

 

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「ただいま、ちょっと買い物してて遅くなっちゃった」

ママが帰って来た。お帰りなさいと言おうとした時、

ママの後ろから黒っぽい背広を着た若い男が

いきなり滑り込むように店の中に入って来た。

男はカウンターに腰掛けたが、何やら落ち着かない様子だ。

ママが良太君に気がつき、中田先生に目で合図すると、

先生は良太君の手を引き、ママと何やら言葉を交わし

ドアを開けて出て行った。

ママはドアのところに立ったままじっと男を見つめている。

 

 

つづく

 

 

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